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陽炎

何もかも受け入れそれを真実だと思っていた時を過ぎ、

世界は広く、到底理解できるものではないと知った時、だたそこに陽炎が揺らめいて。

狭い世界のなか生きてきた人間は時が経つと急に広い世界へと放り出される。

広い世界への知識も何もない。

ただ、放り出される。

そこに揺らめく陽炎に必死に手を伸ばし、確実なものだと思い掴もうとする。

ここにいくつかの質問が並べられ、自分の思う正解を答えればそれは不正解とされる。

何も確実なものなどないのだと心底思うことになる。

それでも心臓は脈打ちこの瞬間も生きることを余儀なくされている。

広い世界の誰かの手によって。

爪を赤く塗ったって、真っ白な世界を望んだとて、広い世界の何者かによって全てが破壊されていく。

破壊されていく、草すら生えない荒廃した地へと。

それでも脈打つ心臓を止めることすら許されない。

どれほど言葉を上手く操ったとて陽炎を掴もうと取り縋るだけだ。

広い世界に放り出した者は誰に咎められることもなくそこへ佇み手を振る。

 

地図どころか道も何もない荒廃した地を這いずり回り、脈打つ心臓が痛いと訴える。

 

広い世界で得るものなど、痛みの刺と空虚な笑い顔だ。

誰かが壊してくれることを願う。

そこに自分など欠片もない。

 

広い世界へ放り出した者に愛情があったのなら。

愛する術を教えてくれていたのなら、荒廃した世界を緑で埋め尽くす言葉を教えていてくれたのなら、指先を掠める物の掴み方を知らせてくれていたのなら。

けれど広い世界へ放り出した者も、何の術も持たなかったのかもしれない。

 

広い世界は眼前に広がりつづけ心の水分はどんどんと失われていく。

灼熱の刃で焼き切れる胸。

鼓動は止まない。

この広い世界で呆然と立ち尽くし走る鼓動を抑え無害である者として何の武器も持たず生きる他ない。

 

誰かが作り上げた広い世界など、自ら壊して作り直せばいいと知りながら、無力さに打ちひしがれ、広い世界を否定し続け緑も愛もない世界を彷徨い歩く。

 

その、一歩を踏み出すこともできずに。